膜厚指定25μmが「2回塗り」になる理由
図面に「膜厚25μm」と書くと、多くの方は「1回のスプレーでその厚さまで一気に吹き付ける」とイメージするかもしれません。しかし現場の実態はまったく異なります。1回の吹付けで出せる膜厚には、塗料ごとに上限が設定されており、それを超えて一気に厚塗りすると、タレ(塗料が垂れて固まる不良)や、にえ(塗膜が沸騰したように荒れる不良)の原因になってしまいます。
そのため、指定された膜厚に到達させるには「薄く塗ってしっかり乾燥」という工程を、規定の回数だけ繰り返すのが基本です。これを重ね塗りと呼びます。一見遠回りに思えるかもしれませんが、この手順こそが不具合を防ぎ、美しく強固な塗膜を作るための鉄則です。例えば「膜厚25μm」という指定であれば、現場では1回の吹付けで済ませることはできず、複数回に分けて塗り重ねる処理になります。そして仕上がった製品は、指定された測定位置において全数膜厚測定が実施され、規定値の範囲内に収まっているかどうかが厳しく確認されます。
つまり、図面上のたった一つの数値の裏側には、「何回に分けて塗るか」「各回どのくらいの厚みで乗せるか」「乾燥時間をどう確保するか」といった、現場ならではの工程設計が存在しているのです。設計者としては、この工程を意識した上で、無理のない膜厚範囲を指定することが望ましいといえます。
「膜厚は厚いほど安心」は誤解
厚く塗れば塗るほど品質が上がる、防錆性能が高まると考えるのは典型的な誤解です。硬化後から長期的な使用期間にかけて、むしろ以下のような不具合が発生しやすくなります。
- 乾燥不良(内部未硬化):表面は乾いているように見えても、内部まで塗料がしっかり硬化しきらない状態です。見た目では判断がつきにくいため、厄介な不良のひとつです。
- クラック(ひび割れ):塗膜が厚すぎることで、乾燥・硬化時に生じる内部応力に耐えられず、表面にひびが入ってしまいます。
- 密着不良、剥離:塗膜が厚くなるほど、下地との密着力は相対的に弱くなる傾向があり、衝撃や経年劣化によって剥がれやすくなります。
これらの不具合は、塗装直後には目立たず、数ヶ月〜数年経ってから顕在化することも少なくありません。そのため「厚く塗ったから安心」という思い込みが、後になって重大なクレームにつながるケースもあるのです。
なぜ厚膜だとダメなのか
塗料にはそれぞれ、性能を最大限に発揮するための「規定膜厚(適正膜厚)」があらかじめ設定されています。これはメーカーが試験を重ねて導き出した数値であり、防錆性能・耐候性能・密着性能などがバランス良く発揮される厚みの範囲です。厚ければ良いというものではなく、その塗料が持つ適正範囲を守ることこそが、本来の性能を引き出す最短ルートといえます。
図面に膜厚を指定する際は、「念のため厚めに」といった感覚的な指示は避けるべきです。塗料の適正範囲に基づいた具体的な数値(例:膜厚15〜20μm)で指定することが、美しく強固で長持ちする塗膜を得るための、最も確実な方法になります。あわせて、その数値が「塗装前の下地寸法」を基準にしたものか、「塗装後の完成寸法」を基準にしたものかを明記しておくと、現場での解釈のズレも防げます。



